ある人は、綺麗といった。 ある人は、禍々しいといった。 そう──だから。 わかってくれる人だけでいいのだと、僕は君に笑いかけた。 君は、泣いて、笑った。 第二話・夢憂<5> 昔──中学時代から、茜月には、翼があった。 カモフラージュのためなのか、彼女はいつも猫背だった。 下を向き、目を合わせず、自信なさげな顔にいつも不安の表情。 まあ、今となっては原因もわかり、ぼくは思う。 ”仕方ない”と。──翼があるから。 でも、”仕方ない”で終わらせるべき問題じゃないのは、ぼくらも承知だ。 茜月の翼のある原因は、知らない。──実は大体想像がついてたりするのだけど。 それはともかく……彼女には、翼があった。おそらく、真っ白の羽。 彼女の落とした羽を、ぼくは持っていた。 これを見せれば、茜月はどんな顔をするだろうか。 それは、とても綺麗な羽だった。 「Don't Cry♪壊れそうなほど〜♪」 「……なあ……」 「逃げてるのか〜♪追ってるのか〜♪」 「……ちょっ、ちょっと……」 「折れた♪淡い翼〜♪」 「お、おいっ……」 「教科書通りの♪毎日の中飛び出した♪」 「……おいいいっ!」 「思いは♪寂寞の夜空に♪」 「千御!聞きたいことがあるんだよ!」 「雨だれは血の♪しずくとなって♪」 「後でいくらでも歌わせてやるから!」 「ヤッター!ヤッター!ヤッター!」 「……」 ぼくは、脱力した。ああもう、疲れる……。 扱いが難しいんだ、こいつは。 まあその分見返りも大きい……ハズなんだけど。 淡い灰色の髪、黄色の髪留め、蒼のかかった瞳。 ……まあ、見た目は可愛い少女なんだけど…… 「ていうかこれ、デートみたいだな……」 ここは、カラオケボックス”虹”。 千御──成瀬千御は、歌いまくってる…… ぼくのサイフ、中身は二千円ほど。 「千御……今日は聞きたいことがあってきたんだ……わかるよな……」 そこでノリノリ(振りつき)で歌っていた千御がとまる。 「……んもう。人が折角ノってたのにっ。いいよ久遠くん、何?」 ぷー、と頬を膨らませ、千御は言う。 ……うん、可愛いんだけどな…… ドリンクバーの烏龍茶を入れてきて飲みながら、ようやく千御と話す。 (ちなみに千御は、メロンソーダ+カルピス+緑茶+コーラ+オレンジジュースだった。 見てるこっちが不味くなる……) 「前から言ってただろ。茜月だよ、茜月茜。あいつのことだよ。」 ぼくが言うと、千御はため息をついて 「女の子を呼ぶときにそんなね…。久遠くんて無作法っ」 千御は、そう怒った。