名前が本体をあらわすものだとするなら。
でも、本体が名前をあらわすものだとは。


夢鬱<15>


”祝福されない贈り物”トラジェディーチルド。
それが、”人ならざる子供”の総称だった。

ぼくも、そうだ。
この消える体──まさしく”透明人間”のそれは、
人間と呼ぶには相応しくない。

ぼくらは、作られた存在なのだ。
人間を超えよ、人間を支配せよ、人間を負かせ──と。
祝福なんてされるはずの無い、兵器。

「あなたも……組織の産物、ってこと…。わたしのこと、知ってたのは、
組織から?」

茜月は、ゆっくりと顔を起こした。
その瞳は、真っ直ぐだったけどどこか虚ろで。

「ぼくは……まあ、そうとも言えるんだけど、そうとも言えないというか…。
ちょっと特殊、なんだ。それは、今度。
はい、じゃあこれ。」

僕は、ポケットから紙切れを出した。
茜月は目をしばたかせて、それを受け取る。

「……これ、まさか。」

その紙切れには、ぼくのメルアドが書かれていた。

「え……と。送って欲しいな…みたいな。送ってください。」
……ぼくも少し照れくさかったのだけど。
というか、受け取ってくれるのかすら……

「……。わかった、送る。送ります。」

茜月はぱっ、と紙をとって、すたすた後ろを向いて歩き始めた。
……まあ、いいけど。

日は、沈もうとしていた。
さっきまで黄金色に光っていた茜月の髪が灰色に戻ってく。暗い廊下。

「また、明日。あ、メールは今日で。」

ぼくの言葉が聞こえたのか聞こえていなかったのか、茜月の足取りは速くなった。


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