ああ、傷つける愛があること。
ああ、傷つけない憎悪があること。
形は結局、同じだってさ。


夢鬱<12>



……ああ、どの辺りを狙ったのかな。
ぼくは、不意に思った。

場違いかもしれない。
──でも、ぼくには解らないこと。

「些細でいいんだって……話せれば。
きみの気持ちが小さいことでも伝えれれば、いいのに。」

ぼくは、小さく呟く。
茜月は固まったままだった。
銃を撃った体勢のまま。
動けずに居る。

それは、自分が発砲した恐怖からでもなく、
人を撃ってしまった罪悪感からでもなく、
ぼくが生きている驚愕からでもなく、

「……っぁああ!?……あ……」
茜月が、小さくうめいた。
声を出そうとしているのに出せない、といった感じ。

あ。
表情はやっぱり驚愕だった。
──まあ、発砲した自分と避けようとしなかったぼくへの驚きかな。

「ど……どう、なってるのよ……!?」

茜月は、銃を落とした。
今度こそ、彼女にも本当の驚愕で。

がたがた震えて。恐怖も混じったその顔で。

「あなた……香澄水、くん……それって、どういう……!?」

彼女の袖から、白い羽が落ちた。
……真っ白、綺麗な羽。

これが、茜月から全部を奪って。
茜月に全部捨てさせたのか。

それにしては──綺麗すぎ。

「ね……死んで、ないよ……ね…?」

「見たら解るだろ?」

……ごめん。
見ても絶対、茜月には何が何だかわかって無いんだろうな。

何故なら。
ぼくの体は透明になって消えていたんだから。


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