嗚呼、この世界では何時でも、話している人が居る。
嗚呼、だからこの世界は色々なものに塗れているんだ。
美しいものをかばいながら、汚いものを背負って。


夢鬱<10>


ぼくは、冷静に言い放った。ぼくの本心を。
そう、心は驚くくらい──静かに、落ち着いていて。

けれど、茜月は今度こそ本当の驚き、怒り、焦りを見せた。

「黙れ!今のこの状況解らない!?頭足りてる!?
あなた、わたしの指が2cm動けば死ぬのよ!
頭可笑しいよ、やっぱり……」

茜月は、茜月の手は震えていた。可哀想になるくらい。
今までは、その手を握る物はなかった。
彼女の震えを止めてあげられる者は居なかった。

けれど、ぼくは。

「……茜月。ぼくはおまえに同情する。おまえを信じてやる。
おまえと居てやる。おまえと話してやる。おまえの手を握ってやる。
おまえを肯定してやる、させてある。おまえと歩んでやる。
──だから、ぼくを信じて。
本当に、単純な願いだろ?
──”お友達”になろう、ってことだよ。」

……別に、嘘を吐いたわけでもなんでもない。

でも、あいつに同情が必要か?
──今まで何も感じることが無かったからこれからも平気?
でも、あいつに信用が必要か?
──今まで誰も居なかったからこれからも平気?
でも、あいつに共存が必要か?
──今まで関わりが無かったからこれからも平気?
でも、あいつに……
仲間が必要か?

必要だ。

ぼくは、心の中で、自分に言い聞かせるように言う。
……そうだ、必要なんだ。

あいつのひとりぼっちな心は、他人を探していた。映していた。
ずっと心が泣いていて、泣きはらしたから茜色の瞳。
寂しくて、涙がかれてもあかいめのまま。
寂しくて、心が死んだ小さなうさぎ。





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