泣いたり笑ったり、結局は幸せなわけで。 苦しんだり喜んだり、残り物は幸福なわけで。 夢鬱<9> ぼくは──手を差し伸べた。 ……ようやく、って感じだったけれど。 ぼくは彼女が、遠かったんだ。 今はこんなに、近い。近づいてみれば、目の前で。 しかし。 彼女はぼくが思っていたより、意地っ張りだったらしい。 いや──意地っ張り、で済まないけれど。 そう、そのとき。 茜月は足を回転させて立ち上がり、銃を拾った。 本当に、一瞬の流麗な動作。 素人、なんかじゃない──ぼくは、色んな意味で凍りついた。 「──近づかないで。……これであなたとわたしの力関係がはっきりしたわね。 わたしの方が、上なのよ。みくびらないで。 ああ、さっきのは演技よ。 残念ね、ご愁傷様──……わたしに関わった、ばっかりに。」 茜月の銃の銃口は、僕の額を離さない。圧倒的不利。 逃げられない。茜月の銃からは。 でも──茜月の心は、揺らいでいる。 ──さっきのは演技なんかじゃない、本心だ。 茜月が垣間見せた、本心。 とても大切な、こころ。 「……ぼくもそれ、似たようなこと言ったことあるよ。 ぼくの友達、になろうとした子がいてね、その子はその所為でとても傷ついた。 けど、言ったよ。はぁ?って。 その子の顔を見てぼくは、人間ってこんなんだっけ、と思っ……」 「黙れ。」 ぐり、と押し当てられる。……ぼくから、茜月の瞳は見えない。 けれど、解る。揺らいでいる。 ぼくに、干渉するのをやめて、と。 でも、ぼくはやめてやらない。 折角本心を見せてくれたから。 ぼくは──隙だらけの彼女の心を、突く。 「茜月。嘘つくなって……おまえのさっきのは、本心だろ?」