不安だったのも、安心していたのも、ぼくじゃなくきみだよ。 だからきみも、ぼくじゃなくきみなんだ。 でも、ひとりじゃなくて ひとりで。 第三話 夢鬱<3> 茜月の表情は、険しいままだ。眉一つ動かない。 …ぼくは、親切に聞いてあげてるのに。 「……香澄水くんて、嘘吐きの典型的な顔してる。」 うわ、何気に失礼。ヒド… 「でも、聞くわ。何者?」 引きつったような、皮肉な笑み。 不安そうな瞳。 ……ようやく、茜月に表情が見えてきた。 「……仲間だよ、きみの仲間。」 ぼくは、心の内を素直に答えた。 そうすると、茜月の表情ががらりと変わった。 皮肉な笑みから、驚きの無表情に。 不安そうな瞳から、疑いの瞳に。 「…やっぱり、嘘吐きだった。」 表情の変化は一瞬──だったみたいだ。 また、前より一層険しい顔に戻る。 ……瞳だけは、前のままで。 「じゃあ、質問を変える。どこまで知ってるの?」 ぎっ、と椅子が音を立てた。どうやら、座りなおしたみたい。 ……おそらく、すぐ動ける状態、ってことなんだろう。 ……臨戦体制。 「全部だよ。その所為でどうなったかも、過去も──」 そこまで言った瞬間、がたんっ、と茜月は椅子から立ち上がった。 もう、表情は険しくない。 怯えて──いる。 恐怖、畏怖、とにかく──怯えている。 「……どうしてよ。答えて?」 冷や汗、震える声、引きつった笑み──…… やっぱり、そこが「傷」だったのか。 一生に関わる問題──一生の、傷。 「…それは、無理。だけど……」 「答えなさいよ!」 ……怒鳴った。勿論、茜月が。 ……どうやら、本気で怒らせたみたいだ。